ペン森OBのMN(元出版社勤務)です。
前回は出版業界を目指すための心構えを書きました。
今回は心構えの先になる、出版業界で起きている変化について考えていきたいと思います。
今回大まかに語るのは大きく二つ。
・出版社はデジタルを活用するIP(知財)カンパニーへ
・企画・取材をどう「活用できるか?」も重要な新卒のポテンシャルに
まず当然の大前提としてみなさんもわかっているとは思いますが、出版業界のデジタル化は待ったなし!
2023年出版市場全体の売り上げは減少していますが、電子書籍の売り上げは伸びています。
BookLinkさんによれば…
2023年出版市場(紙+電子) 前年比2.1%減の1兆5963億円、
紙の出版が同6.0%減、電子出版が同6.7%増。紙の出版は書籍、雑誌ともにマイナス。電子出版は、電子コミックは同7.8%増のプラスだったが、電子書籍と電子雑誌は減少した。
とのこと。
そのメインはコミック。
ぜひこのあたりの現状は東洋経済さんのこの動画を見るとよくわかると思うので必見です。
このように、皆さんが働く2020年代、そして30年代を考えると出版物は「デジタル」を中心に流通することを前提に考えた方がよいでしょう。その時に出版社そのものの役割も変化していきます。
出版社はデジタルを活用するIP(知財)カンパニーへ
①出版社の才能を見つけ、育て、コンテンツを作る企業という強みは変わらない
②稼ぎ方は従来の「紙の出版」だけでなく「デジタルでの流通」へ
③「紙の書籍のデジタル化」だけでなく新たな表現、体験、ビジネスが生まれる
④出版社の広告ビジネスの在り方も新次元へ
ということでしょう。
まず最初に言いたいのはどんなにデジタル化したとしても
①出版社の才能を見つけ、育て、コンテンツを作る企業という強みは変わらない
ということ。
仲間の編集者と話していていつも実感するのは、出版社というものは才能を発掘し、投資し、育て、けっこう失敗し…を繰り返すことのできる商習慣を持つ稀有な存在です。この商習慣を持っているのは日本ではレコード会社や大手芸能事務所くらいでしょうか。
「いわば千三つ(千出しても三つしかヒットしないコンテンツビジネス)」はテレビ局も商社も広告会社も投資効率性を求める株主から責められるのでなかなかできません。けれど出版社はできる!!100年の伝統に培われたノウハウがある。それは何よりの業界の強みだと思います。
②しかし稼ぎ方は従来の「紙の出版」だけでなく「デジタルでの流通」へ
これは先ほどの様々な分析を見れば自明でしょう。
2030年代には紙の出版は市場シェアの2割を下回る可能性さえあると思います。
そうなると一体何が変わるのか?
③「紙の書籍のデジタル化」という方向だけでなく全く新たな表現、体験、ビジネスが生まれる
いま出社業界におきつつあるのは「電子書籍=紙の書籍のデジタル化」です。
しかしいまデジタルの世界では
・音声で読み上げるコンテンツ(イケボ声優も可)
・AIを活用しアニメ化したコミックの動画配信もできる
・VR/ARを活用した新体験も創造できる
・コンテンツそのものをコミュニティ化しそこで新たな体験も作れるかもしれない
と開発したコンテンツを中心としたあらゆる表現、体験展開の可能性があるのです。
これから出版社に入る皆さんに求められるのは、表現の出口として「紙の本のデジタル体験」を作るだけでなく、今までの出版社がやってこなかったような2030年代的新たなコンテンツ体験の創造が求められているのです。
2023年Apple Vision Proが発売されAR/VRの活用がさらに進みました。
VR空間の中でアバターをまとい、そこで1日の大半を過ごすユーザーがいる未来。
この空間の中で出版社の持つキャラクター、コンテンツはものすごい価値をもつのではないでしょうか?
あの漫画のキャラクターの服を着れる、あのコンテンツを愛する人だけが集まる仮想空間の街で過ごせる。
さらにアニメキャラクターの「中の人にはAI」がなりきって自由自在に会話もできる。
もしかしたら、そのキャラクターとメタバース上で友達になれる、結婚できる…
その空間で出版社の持つコンテンツをどう「お金」にするのか。
憧れのあのキャラクターとメタバース上で結婚できるのならば、ものすごい高額を払うファンも出てくるかもしれません。
そしてAIによって言語障壁もなくなりつつある今、グローバルで莫大な収益を稼ぎ出すかもしれません。
いずれも東洋経済さんからですが…
「ソニーKADOKAWA連合」、アニメ業界に走る激震
伊藤忠が狙う「アニメ・IPで1000億円」構想の衝撃
こんな記事が華々しく報じられる背景には、こんな「可能性」まで見越した思惑があるのかもしれません。
これから出版社に入る皆さんに求められるのは、ただ単に「本を作る」ということだけでなく、このようなコンテンツの使い方まで見通し、考えられるセンスもますます重要になるでしょう。
そしてすでに各社のエントリーシートや面接では、このような視点が問われ始めています。
あなたはこの新たな「出版業界」の展開にちゃんと視点をもっていますか?
そして最後に、
④出版社の広告ビジネスの在り方も新次元へと向かう
ということです。
この好事例は講談社さんかと思います。
2015年野間社長は「出版の再発明」を掲げ、ビジネスの変革を行いました。
その変化はこの記事に詳しく乗っていますので是非読んでいただきたいのですが
出版広告を“再発明”する デジタルの売上げ比率は6割へ 講談社はいかにしてDXを実現したのか?
・2010年から5年間で雑誌広告収入が半減する中でデジタル広告へのシフトを大きく進め、2018年から回復傾向に。
・デジタル広告収入は2015年から2020年までに9.2倍の3,192億円へ!
・すでに講談社の広告収入の6割はデジタル経由
になっているそうです。
出版がデジタル化するのと同様に、出版広告収入もデジタルシフトしているのです。
その中での面白い試みがC-station。
これは講談社さんが独自に自社のコンテンツを企業向けのマーケティングソリューションとして提供する、新たな手口です。
従来は「コンテンツが載っている雑誌に企業の広告を載せる」ことでビジネスしていたものを
「コンテンツそのものを企業のマーケティング課題解決に役立てる」ということで稼ごうとしているのです。
例えば
・はたらく細胞が企業の商品をPRするストーリーを語ってくれる
などなど、コンテンツを活用した様々なビジネスを生み出しています。
このように、出版志望のみなさんには従来の「出版」を超えた、より広い出口、新しい視点が求められていると言えるでしょう。
まさに企画を考える、取材をするだけでなく
・企画、取材内容をを新たな「ユーザー体験」しビジネス化すること
も問われていくのです?
ただ、そのために付け焼刃で知識を語るということが必要なのではなく何よりも「あなた自身が何をやりたいのか?」という血の通った言葉で未来を語ることが重要です。
ぜひあなたのやりたい、を見つけながらワクワクする未来をペンの森で考えてみませんか?
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