読売新聞内定者

 

タイトル「理想」

 

経済産業省前。今でも原発に反対して座り込みをしている人たちがいる。就活の合間にそれを見つけ、話を聞きに行った。

 「No!原発」のプラカードを持った中年女性に話しかけると、快く迎えてくれた。2012年に定年を迎え、それ以来毎週火曜日に座り込みに来ているという。福島の子どもたちが甲状腺がんのリスクに冒されていることに胸を痛め、4人の孫たちが幸せに暮らせるようにと願い、座り込みに参加していることを教えてくれた。

 女性は一通り話し終えると、一人の男性を紹介してくれた。荻原敏夫さん(仮名)。大手重工メーカーの元技術者で、原子力を監督する公的機関にも勤めた。そして、そこで目にした検査データの不正を内部告発したところ、不遇な処遇を受けた。

 萩原さんは完全な原発廃止論者というわけではない。十分な安全性が確保される新型の原発であれば許容できるし、そのための研究開発費を強化することが必要だと考える。ただ、有効な解決策もないままに、原発再稼働を推し進める国のやり方に納得できていないのが萩原さんの姿勢である。

 萩原さんは必ずおにぎりとゆで卵を30個ずつくらい持ってくる。おにぎりの中身は梅干し。ゆで卵は圧力鍋出調理している。座り込みをする仲間のためだ。それぞれの考えや座り込みに参加する理由は異なるが、萩原さんの料理は彼らの絆のように感じた。

 萩原さんは自身のことを「天上天下唯我独尊」と表現した。告発当時はメディアにも多く取り上げられたという。それも、ここ4,5年は取材も受けていない。

 今、日本のエネルギー政策は大きな岐路に立たされている。エネルギー自給率の低い日本にとって、ベースロード電源である原発から完全に撤退するシナリオはない。あるべき理想のエネルギー政策とは何か。誰もが納得できる政策を実現するためには、反対する識者の声にも耳を傾けるべきである。それができていないからこそ、座り込みが続く現状があるのではないか。