題:格差

 

 東京でも、鉄道の空白地帯には店が少ない。私がアルバイトする杉並区の酒屋チェーン店の近くにはコンビニすら無い。競争相手が少ないおかげで客が集まり、チェーンの中で稼ぎ頭だった。が、昨年秋に店の近くに大手スーパーができて状況は一変した。

「ビール高いわね。今まで殿様商売が過ぎたんじゃない?」。かつて常連だった主婦に皮肉を言われた。酒屋は家まで宅配することを売りにしている。店で売る時も運賃を上乗せした値段なので、価格の面では大手スーパーには敵わない。店の売上げは一月で三割も落ちた。あっという間に店は大赤字。今も存続が危うい状態が続く。

 

 一方で、宅配の注文は以前とそう変わらない。近隣には老朽化した団地と、老人ホームがある。ここに住む高齢者は車を持たず、重たい荷物を持ち帰るのが困難な人が多い。団地で暮らす、常連の老夫婦は毎週天然水を24キロ分注文してくる。私は一度に抱えて、2人が暮らす4階まで駆け上がれるが、腰を痛めた高齢者はそうはいかない。「いつもありがとう」。そう言って玄関口で熱い緑茶を出してくれる。「酒は医者から止められちゃったよ」とご主人が苦笑いする。そんな短い世間話が私の毎週の楽しみだ。

 

 大手スーパーは安い上に営業時間も長い。同じ物を買うのであれば、安いほうがいい。酒屋のみならず、規模の小さな商店にとって脅威だ。地域の中で淘汰が進んで大型店だけが残ることもあり得るだろう。そうなった時に、大型店が採算を取れなくなって撤退したとする。すると、全く店のない地域が生まれてしまう。団地の老夫婦を思い出す。遠くまで買い出しに行くのは難しいだろう。誰もが日用品を手に入れられる環境が必要だろう。

(18期・毎日新聞内定・SIさん・明治大)