題「オッケ~」

 

 小さな机が二つ。白板には給食の献立が大きなイラストで描かれている。本棚にあるのは、「ノンタン」や「アンパンマン」の絵本。教職課程の一環で訪れた養護学校で、小学二年生のクラスに配属された。クラスといっても先生二人に対して児童も二人。さえちゃんと、ゆうきくん。脳に障害があり、言葉を使うことはできない。

 

 「みなさん、おはようございます」。先生は大きな声で、ゆっくりと話す。おはよう、おはよう。反応があるまで、しっかり目を見て繰り返す。時おり手話を混ぜながら。おはよう。「あ、あ」。同じ言葉でなくとも、ちゃんと伝わっている。

 

 二日目の昼。先生の一人が体調を崩してしまい、私が食事のお世話をすることになった。ご飯を手で掴もうとしてしまうゆうきくんに、スプーンを差し出すも、どうしても上下反対に握ろうとする。こっちだよ、と持ちかえても、すぐに元通り。何度チャレンジしても直してくれない。ケロリとした顔で逆さにスプーンを持つゆうきくんに、つい苛々してしまった。見かねた先生が隣にきて、テキパキとご飯を食べさせていく。今日はスプーン難しかったね、でもちゃんと座れてるね。「やったあ」とハイタッチ。

 

 先生は、ゆうきくんと同じ方向を見る「同志」なのだと思った。明日はスプーン頑張るぞ、と自分のことのように話しかけている。無理にこちら側を向かせようとばかり考えていた自分が恥ずかしかった。

 

 怒鳴ることも、おだてることもしない。当たり前だと思える日常の動作を一つひとつの変化を褒め、直していく。先生の姿勢に、心を打たれた。存在を丸ごと認める大きな「オッケ~」に包まれて、子どもたちはゆっくりと成長していくのだろう。

 

 自分と似た人、違う考え方の人。どんな相手でも、まずは「オッケ~」と認めあうことから始めよう。先生がくれた、大切な目標だ。